私は高価なものが怖い。例えば家具や車や服、ものとして形を持った高価なものに恐怖を感じる。(高価であっても、チケットとか、本とか、物としてではないところに価値のあるものにはあまり感じない)  私の母は、祖母の代から裕福な家庭だったようで、仕立てたスーツや高価な着物を持っていた。お店に行けば、奥に通されて特注の着物を見せてもらうようなお得意様だった。よく、私が幼いころ、祖母と母とで買い物をした。  私が幼いころ父と別居し、さらに母の父、母があいついで亡くなったとき、母は高価なものを必要以上にたくさん買うようになった。高価なじゅうたんを3枚重ねにして家に敷いた。家族は私しかいないのに食器棚が4つもあった。家はもので溢れかえって、そのうちひどく汚くなった。母は夜遅くまでお酒を飲むようになった。 高価なものはこのころを思い出すからこわい。母の寂しさや苦しさを思い起こさせる。